今回は、「文法原理主義に侵された人」というテーマでコラムを書いていきたいと思います。
”文法原理主義”とはなかなか聞くことのない単語だと思われますが、それもそのはず。私が作った造語です。ちなみに、タイトルだけ読むと文法原理主義とは何かの疾患じゃないかと思われるかもしれませんが、別に”病院に行って治療の対象だ!”とは1ミリとも思っていませんのでご容赦ください。
それでは、まず「文法原理主義者」とは何か?
文法原理主義者とは、文法事項を厳守することに固執して些細なミスを許容できない人のことです。
このような人、皆さんの周りにもいらっしゃるのではないでしょうか? 私の肌感覚では、大学受験界隈に多くいる印象があります。Twitterですと、比較的簡単に見つける事が出来ますね。
それでは、彼らの生態に迫っていきましょう!!
まず彼らの特徴として一番に挙げられるのは、他人の犯した文法ミスに厳しい点です。例えば、2020年東京オリンピック・パラリンピックで選手を送迎するバスに向けて応援メッセージを書いたボードを掲げた男性に向けられた指摘?です。
その男性は応援ボードに、以下のような英文を書いていました。
Good Morning Athletes!
Even if you don’t get a medal,
you’re still the BEST!!
So beleive in yourself!
NHK ニュース|https://www3.nhk.or.jp/news/html/20210802/k10013175261000.html
意味は、「アスリートの皆さん、おはようございます!たとえメダルを取れなくても、あなたは最高!! だから自分自身を信じて!」となります。
問題視されたのは、最後の文章”So beleive in yourself”の「in yourself」の部分です。
一見すると、文法的には「believe yourself」が正しいです。意味は「自分自身を信じて」ですね。しかし、この男性は”beleive”と”yourself”の間に“in”を入れていました。この間違い(※正確にはこれも正解です。理由はあとで言及します)に文法原理主義者が反応して、「メッセージを発信するなら、ちゃんと文法を確認しろ」などと批判していました。
ちなみに、”beleive in yourself”を調べたところ、これも正しい表現のようで意味としては、「(一時的ではなく、人間としての能力《人柄等》として)自分を信じて」というものでした。一方、”believe yourself”は、「(一時的に)自分を信じて」とのことです。この違いは私も知らなかったので、とても勉強になりました。
結果的には、どちらも正しい表現だったわけです。語学を学び実際に留学した身から言わせると、「言語は生き物」です。その時代・場所によって、文法や表現に違いが出てきて、当初は文法的に間違いだったことも世間的に一般化すると許容されることも往々にしてあります。
例えばスペイン語の場合ですと、スパングリッシュというものがあります。
スパングリッシュとは、特にアメリカにおいてスペイン語と英語の両方を用いて生活するヒスパニック系の人々の間で話される言葉です。
文字通り、スペイン語と英語の混合言語なので、学校などの試験で書くと✖になります。要は、スペイン語として見た時には、既存のスペイン語文法と照らし合わせると間違った文法・表現となります。
例を挙げると、スペイン語の「午前中に」という表現に”por la mañana”があります。これをスパングリッシュで言うと、”en la mañana”となります。”en”とは、英語の”in”に当たります。英語の”in the morning”から影響を受けてるわけですね。
これはほんの一部の例ですが、他にも文中の単語を一部英語にそっくりそのまま置き換えて話す表現もあります。実際にこう言った言語が多くのヒスパニック系の人々の間で話されているのは事実ですし、留学中にもアメリカ人のクラスメイトが話しているのを耳にしたことがあります。このようなことを、「言語接触現象」と呼びます。
コラムを書いていたら長くなってしまったので、ここまでを前編とさせていただきます。後編は、文法原理主義者を生み出す背景について迫っていく予定です。以下のリンクよりどうぞ⇩